現在数字や文字を表示するデバイスはLEDや液晶ですが、1960年代から2000年代にかけては、ニキシー管やVFD管が使われていました。
ニキシー管
1956年アメリカのバローズ社が、グロー放電によって数字を表示する、ニキシー管を開発しました。ちょうどその頃、急速に発展していた計算機や計測機器などに採用され、世界中で生産されます。
ネオンガスの入ったガラスのチューブの中に、0から9までの数字を形どった薄い金属片が入っており、170V程度の高い電圧をかけることで、金属片の周辺がグロー放電して光ります。
VFD管(蛍光表示管)
1967年日本の伊勢電子工業が開発した、ニキシー管に替わる表示器です。真空のチューブの中に、電子を放電するフィラメントと、電子が当たると光る蛍光体が内蔵されています。7つのセグメントで数字を表現しており、平面的で緑色に発光するのが特徴です。発光に必要な電圧は30V程度とニキシー管に比べ低圧で、当時の半導体技術でもコントロールしやすい電圧であったため、急速にニキシー管からVFDへと移り変わりました。
ウクライナはニキシー管VFD管の名産地
eBayでニキシー管を購入すると、かなりの確率でウクライナから荷物が届きます。ウクライナはニキシー管とどのような関係があるのでしょうか。ニキシー管時計で知り合ったウクライナのニキシー管愛好家の方に聞いてみました。
ガゾトロン
ウクライナには、ガゾトロンファクトリーという、ニキシー管や蛍光表示管の製造会社がありました。ガゾトロンは、ソビエト連邦の一部だった当時のウクライナで最初の電子産業の一つでした。計算、計測技術の発展で表示管の需要が高まると、ガゾトロンは巨大な製造工場となりました。
ガゾトロンは、ニキシー管のIN-1の製造から始まり今ではとてもポピュラーなIN-12、IN-14などを産み出し、後にVFD管IV-6などを製造していました。
ガゾトロンでは、表示用デバイス単体だけではなく、それらを応用した大型の得点ボードのような表示装置や、今でいう電光掲示板のような表示器も生産していました。ニキシー管やVFD管の当時最大規模の生産工場となっていました。
ニキシー管やVFD管はガゾトロンだけでなくソ連の各社で大量に生産されました。ニキシー管のINシリーズだけで35種類、VFDのIVシリーズだけで42種類あり、それ以外のモデルも多数ありました。
Russian tube data book 1165 より
ガゾトロンでは、真空放電技術を生かし、蛍光灯や電球型蛍光灯も生産していました。
また、医療用の電極も生産されていました。
このようの、ガゾトロンはニキシー管やVFD感だけでなく、それらを利用した表示装置や、放電・電極技術を応用して蛍光灯、医療機器など幅広い製品開発を行っていました。
ニキシー管VFD管の終焉
1970年。実用に耐えるLEDが誕生します。写真はロシア製のHP5082です。画像出典Amazon。
LEDの登場により、発光するデバイスはほぼ全てがLEDに置き換えられました。LEDは、VFDよりもさらに低電圧の3V程度で光るため、ICから直接LEDをドライブすることができます。製造も半導体技術を使うために、微細化量産化に向いており、様々なメーカーから様々な表示デバイスが登場しました。
当時は電卓の開発競争が激化していました。電卓はより小型により安くという激しい競争の中、電卓のVFD管は液晶パネルに置き換えられ、小型薄型化されました。
こうして、ニキシー管やVFD管の需要は激減し、LEDに転換できなかったガゾトロンは、1992年から1993年にかけて、生産が中止され工場が閉鎖されてしまいました。
現在のガゾトロン
Ukr-Promのサイトに住所が載っています。「Ровенская область,
г. Ровно, ул. Гагарина, 39」という場所です。googleMapで見ることができます。ここが過去の工場の跡地かどうかはわかりませんが、大きな建物が見えます。今は、印刷屋さんが入居しているっぽいです。
ストリートビューで工場の端のちょっとを見ることができます。ここで、ニキシー管やVFDが製造されていったのでしょうか。
ウクライナにある倉庫には、過去に生産されたニキシー管やVFD管が、まだ保管されており、現地の人はそこから購入が可能だそうです。しかしながら、数も少なくなってきており、年々入手性が悪くなってきており、特にレアなデバイスは入手が難しいということです。
ニキシー管やVFD管は、もう製造されていないため、電子工作で何か作るのであれば、早めに取り掛かった方がいいかもしれませんね。年々部品の価格が上がっています。
ガゾトロンは軍事機密の工場だったため、情報がほとんど残っていないそうです。ウクライナのニキシー管愛好家の方から、貴重な情報が聞けて、とても嬉しいです。感謝しています。
日本発のニキシー管
現在では、ニキシー管を製造する会社は無くなってしまいました。
しかし、チェコの方がニキシー管を作っているそうです。また、日本でも自力でニキシー管を作っている方がいらっしゃいます。最近クラウドファウンディングで資金調達をされたyuna_digickさんです。
メイカーフェアにも何度も出展され、私もお話を伺ったことがあります。ニキシー管愛の強い方でした。
yuna digickさんの作品を見ることができます。
写真を見ているだけでも、綺麗さにうっとりしてしまいます。日本からも世界へ向けて綺麗なニキシー管が飛び立つといいですね。
kohacraftのショップでも、VFD管やニキシー管を使った時計キットを販売しています。あなたも表示の色が綺麗な、VFD管やニキシー管を、となりに置いてみてはいかがですか?
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