鉛蓄電池は過放電するとバッテリーが劣化してしまい、使えなくなってしまいます。そこで過放電する前に負荷を切り離す回路を作ろうと思います。
太陽電池でリビングの照明をまかなう
家のリビングの照明は、太陽電池のエネルギーで光ります。ベランダの屋根に設置した太陽電池の電気をバッテリーに充電して、夜間でも使えるようになっています。
リビングと隣の部屋はバッテリーの電気で光るため、電気を使いすぎてブレーカーが落ちても、真っ暗になることがなく便利です。
天気な日が続くと問題ないのですが、曇りや雨が続くと発電量が足りず、使う量の方が多くなり、バッテリーが過放電してしまうという課題がありました。
そこで、過放電する前に、バッテリーと負荷を切り離す回路を作ろうと思います。
条件を決める
バッテリーの終止電圧
トランジスタ技術のバックナンバーによると、12Vの鉛蓄電池は10.5Vが終止電圧のようです。そこで、少し余裕を見て10.6Vで負荷を切り離すことにします。
ヒステリシス
バッテリーは負荷が無くなると、これまで電流が流れていたために発生していた、内部抵抗による電圧降下がなくなるため、バッテリー電圧が上昇します。
そのため、単純に10.6VでON,OFFする仕組みにすると、バッテリー電圧が10.6Vになり負荷が切り離された後に、バッテリー電圧が10.6V以上に回復してしまい、再びONするという現象を繰り返してしまいます。
そこで、OFFとONの電圧に差を設けます。
この電圧差(ヒステリシス)をあまり大きくしてしまうと、OFFした後たくさん充電されないとONできません。そこで、1V弱のヒステリシスにします。
回路を設計
電圧検出回路の叩き台
ヒステリシスがある電圧判定回路を考えます。
特定の電圧になったかどうか判定するために、ツェナーダイオードを使います。ツェナーダイオードは特定の電圧以上になると電流が流れる部品です。
逆に考えると、ツェナー電圧(Vz)以下になると電流が流れなくなります。バッテリーが終止電圧以下になったら、回路の消費電流は極力抑えたいので、好都合です。上の回路図のD2がツェナーダイオードです。D2のツェナー電圧(Vz)以下になったら、NMOS-FET(Q2)のゲート電圧が0Vになり、NMOSがOFFします。
D1とPMOS-FET(Q1)がヒステリシスを発生するための回路です。
D2のツェナー電圧(Vz)以下でNMOS(Q2)がOFFの場合、PMOS(Q1)のゲート電圧はソース電圧と同じなため、Q1もOFFです。すると、ツェナーダイオードD2とダイオードD1が直列に接続されます。NMOS(Q2)がONするためには、D1のダイオードの順方向電圧(Vf)と、D2のツェナー電圧(Vz)を加算した電圧以上になる必要があります。
つまり、ONするためには、Vf+Vz以上の電圧が必要です。
Vf+Vz以上の電圧になると、NMOS(Q2)がONして、PMOS(Q1)のゲート電圧が0VになりPMOSがONします。するとD1を流れる電流はPMOSをバイパスすることにあり、D1が回路から消えることになります。このため、NMOS(Q2)がOFFするためには、D2のツェナー電圧(Vz)以下になる必要があります。
つまり、Vz以下の電圧でOFFします。
以上のことから、ヒステリシス電圧をD1のVfで、OFFする電圧をD2のVzで設定することができます。
詳細設計
MOS-FET(Q1,Q2)
NMOSとPMOSは閾値電圧が低く、ポピュラーなBSS138とBSS84にしようと思います。どちらも1.5V程度でONします。
ツェナーダイオード(D2)
10.6VでOFFしたいので、ここからBSS138の閾値電圧(Vth)1.5Vを引くと、9.1V。このため、D2のツェナーダイオードは9.1Vとします。
ダイオード(D1)
ダイオードの順方向電圧は一般に0.65Vですが、これは特定の電流を流した時の値です。ダイオードは、電流を減らせば減らすほど順方向電圧は小さくなります。今回の回路は10uA程度の消費電流にしたいので、ダイオードに流す電流もとても小さな値となります。
上のグラフは順方向電流と順方向電圧の関係のグラフです。10uAでは順方向電圧は0.4V、数uAでは0.3V程度になってしまうことが予想されます。このダイオードを1V弱になるように多数直列に接続しても良いですが、直列に接続した分だけ温度に敏感な回路になってしまいます。
ツェナーダイオードのデータシートを見ていたら、ダイオードよりも順方向電圧が大きいことに気がつきました。上のグラフはRohmのツェナーダイオードの順方向電圧特性です。100uAで620mVあります。1SS362は100uAで500mV程度。温度特性もツェナーの方が良さそうです。
こちらのツェナーは1uAまで書いてあります。1uAで570mV程度あります。
これらのことから、ヒステリシスを発生するダイオードには、小信号ダイオードと順方向に接続したツェナーダイオードを組み合わせて0.8V程度にしたいと思います。
電圧検出回路
実際に回路を作って試したところ、上のような回路になりました。ヒステリシスを発生するダイオードには、ダイオード+OFF検出で使うツェナーダイオードを順方向に接続しました。これで0.8〜0.9V程度のヒステリシスになります。
VR1を調整することで、回路の電流が変化し閾値電圧を調整できることもわかりました。
10.6V程度でOFF(ON/OFF信号はHigh)、11.5V程度でON(ON/OFF信号はLow)します。
スタティックラッチで2値化
スタティックラッチの基本回路は、上の回路のように2つのNOTゲートでループを作った回路です。こうすることで、出力はHighかLowのどちらかで安定します。
値が変化するときに大きな電流が流れてしまうため、頻繁にON,OFFを繰り返す回路には向きませんが、今回のように、たまにしか変化しない回路では問題ないかなと思います。
ハイサイドスイッチ
この装置はバッテリーと負荷の間に接続されるので、GNDが共通の方が良いかなと思い、スイッチはハイサイドに入れます。
3mm x 3mmと小さいサイズなのに、30Aも流せるんですね。
基板データの作成
今までの回路にノイズ対策や省電力化を追加して結合し、バッテリー過放電防止回路の設計が完了しました。KiCadで基板データを作ります。
電流は10A程度流せるよう、電源ラインは基板両面に5mmの幅で極力短く配線しました。
49mm x 23mmという小さいサイズにまとまりました。インピーダンスが高い回路なので、シールドケースに入れようと思います。
まとめて実装できるよう、8枚面付けしたデータを作りました。
JLCPCBに基板を発注
JLCPCBに基板を発注します。「Add Gerber file」にzipで圧縮したガーバーデータをアップロードします。すると基板が表示されます。
製造パタメータを設定していきます。
4x2に面付け基板なので、「Delivery Format」を「Panel by customer」にして、「Culmn」を4、「Row」を2にします。
基板の色をBlueに変更し、基板の表面処理を金メッキの「ENIG」へ変更します。JLCPCBは金メッキ基板でも安く作ってくれます。
以上で基板の設定は完了。
続いてメタルマスクの設定です。メタルマスクは標準サイズがとても大きいので、150mmx150mmにカットしてもらいます。
「Customized size」を「Yes」にして、150mm x 150mmに設定します。
表面にしか部品を実装しないので、「Stencil Side」は「Top」のみ。
また、ピンを使って基板とメタルマスクとの位置合わせができるようにデータを作ったので、「Etched Trhough」を選択します。
ピンを使ったデータの作り方は、こちらをご覧ください。
以上で、メタルマスクの設定も完了です。「SAVE TO CART」でカートに入れます。
「Secure Checkout」で注文へ進みます。
発送先と運送業者を選び、3番目の「Submit Order」で「Review Before Payment」を選ぶことをお勧めします。これはJLCPCBが基板データをチェックして、料金が確定したから支払いをするという方法です。
設計や注文時のパラメータの設定ミスで、後に料金が変化することがあります。「Review Before Payment」では金額が確定してから支払えるので、安心です。
今回はJLCPBから、データに関する確認のメールが届きました。
Well got your order with many thanks~
Sorry to bother you, but there is one thing that we want to confirm with you about your stencil order before proceeding.
As shown below, do you need to expose the yellow pads at the arrow on stencil?
ご注文ありがとうございます。1点確認したいことがございます。下の図に示す黄色のパッドは、メタルマスクに開口部が必要ではないでしょうか?
的確な指摘に、とても関心してしまいました。この2つの部品は、指摘のようにメタルマスクに穴が開きません。これらの部品は必要だったら手はんだで実装するつもりで、このようなデータにしてあります。
しかし普通であれば、これらのパッドにはんだペーストが印刷されないので、実装時に大問題となります。その問題にJLCPCBの人が気付いてくれて、丁寧に確認のメールを送ってくれました。こういった細部までチェックしてくれて、素晴らしいサービスだなと思いました。
データのチェックが完了すると、支払いに進めるようになります。「Pay」をクリックして支払いを完了させます。
基板の製造が開始されました。
届くのが楽しみです。
2023.1.23 追加 続きはこちらです。
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