スイッチング周波数を設定できるDCDCコントローラICを使って、ニキシー管を点灯させるための昇圧回路を設計してみました。
DCDCコンバータICとの違い
DCDCコンバータICは、コイルとダイオードなど少ない部品でDCDCコンバータ回路を作ることができる便利なICです。データシートに載っている値の部品を接続することで、簡単に回路が設計できます。しかし、目的の応じた最適化がされているために、スイッチング周波数やスイッチング時の最大電流などのパラメータを変更できないのが一般的です。
これに対して、DCDCコントローラICはDCDCコンバータの制御機能だけのICです。スイッチング周波数や最大電流を設定でき、スイッチング用のMOS-FETも自由に選択できます。
これまではDCDCコンバータICを使ってニキシー管用の電源を作ってきましたが、うまく設計できずに効率が悪いという課題がありました。スイッチング周波数をこれまでよりも低くしてみたいのと、最大電流をトランスに合わせて設計したいので、DCDCコントローラICで回路を作ってみようと思います。
MAX668
とても便利そうな昇圧用のDCDCコントローラICを見つけました。
このICは3Vでも動作するため、想定している電源電圧の5Vでも余裕で動作します。
また、スイッチング周波数やスイッチング時の最大電流は、FREQピンとCS+のピンに接続する抵抗値で設定できます。
MOS-FETは外付けですが、スイッチング用のMOS-FETのドライブ回路が入っているため、MOS-FETを直接接続できます。
DCDCコントローラICを使っていますが、少ない部品で簡単にDCDCコンバータを実現できそうです。
回路の設計
データシートにある、トランスを使ったSEPIC回路の例を参考に回路を設計します。
1:10のトランスを使う
データシートの回路のトランスは1:1ですが、これを1:10のトランスに変更します。出力電圧を175Vとすると、MOS-FETのドレイン電圧は1/10の17.5Vになり、一般的な耐圧のMOS-FETが使えます。高耐圧のMOS-FETは高価で種類も少ないですが、低い耐圧であれば安価でON抵抗の低い物を選定することができます。
スイッチング周波数の設定
スイッチング周波数はFREQピンの抵抗値で設定します。データシートの式から値を計算できます。スイッチング周波数をこのICの最低周波数である100kHzにする場合、式から500kΩと計算できます。
動作させてみてあまり良くなかった場合には、抵抗を交換することで簡単にスイッチング周波数を変更できます。
最大電流を設定
スイッチング時の最大電流は、CS+ピンに接続する抵抗値で設定できます。今回使うトランスの最大値が3.2Aなので、式に代入すると27mΩとなります。近い値で3.2A以下となる30mΩにします。
出力電圧の設定
出力電圧は以下の式で、抵抗R1とR2でよって設定できます。
Vout = Vref * ( 1+ R1 / R2 )
Vref = 1.25V
R1を2MΩとすると、R2が14.3kΩの時にVoutが176Vになります。
パラメータが決まる
以上でパラメータが決まりました。
基板の設計
左側の電源の入力端子から右側の出力端子へ、電流(オレンジ色)がスムーズに流れるように部品の配置していきます。スイッチングした時の電流のループ(水色)も、小さくなるようにします。このループの面積が小さいほど、放出されるノイズも小さくなります。
かなり小さいくまとまりました。
このモジュール基板を別の基板に直接実装できるよう、基板の側面に端面スルーホールをつけました。
中国の基板屋さんは10cm x 10cmのサイズであれば安価に製造してくれます。そこで、そのサイズになるようモジュール基板を8個面付けしました。
JLCPCBに基板を発注
端面スルーホールや金メッキの基板でも安価に作ってくれるJLCPCBに基板を発注します。
基板の設定
ガーバーファイルをアップロードすると、基板のプレビューが表示されます。その後、製造のパラメータを設定していきます。
今回の基板データは面付けされた基板データです。このため[Delivery Format]を[Panel by Customer]に変更します。面付けは縦4つ、横2つなので、Columnを4、Rowを2にします。
基板の色は黒にしたいので[PCB Color]を[Black]にします。JLCPCBの黒い基板はやや艶消しのブラックで気に入っています。
メッキは金メッキにしたいので[Surface Finish]を[ENIG]にします。
また、端面スルーホールが基板の左右の2つの面にあるので、[Castellated Hole]を[Yes]にして、[Edges]を2にします。
メタルマスクも一緒に作ってもらいます。
メタルマスクの標準サイズは38cm x 29cmと大きいので、基板サイズ+2cmの大きさにカットしてもらいます。また、基板の表面にしか部品がないので[Stencil Side]を[Top]にします。
メタルマスクが大きいと収納時に場所をとり、基板と同じサイズにするとクリームはんだを印刷するときにクリームはんだが外へこぼれます。そのため、基板サイズ+2cmが私には良いサイズ感でした。
以上で設定が完了。カートに入れます。
データのチェックを受けてから発注
[Secure Checkout]で支払いへ進みます。
発送先と配達業者を設定し、3で[Review Before Payment]を選び、右下の[Continue]をクリック。
ステータスがReviewingとなり、データのチェックが開始されたことがわかります。
チェックが完了するとJLCPCBからメールが届きます。データのチェックによって料金が変更になる場合があります。もし意図しない変更だった場合には、基板データを修正してアップロードし、もう一度チェックを受けることもできます。
チェックの結果に問題がなければ、支払いに進みます。
支払い方法を選択し右下の[Pay]をクリック。PayPalの支払い画面に遷移するので、そこで支払いを行います。
基板の発注完了
JLCPCBにDCDCコントローラを使った、ニキシー管用の昇圧基板の発注が完了しました。
さて今回の回路はうまく昇圧してくれるでしょうか。
2023.4.12 つづきはこちら
ここで紹介したDCDCコンバータはこちら👇👇👇で販売しています。
コメント
Really interesting article!
Could you, please, share the bill of material for this board?
As you used jlcpcb, I' assuming you also used lcsc. Having the lcsc part numbers would help a lot 🙂
I'm in the early stages of development off a similar board and would like to build one for tests.
Thanks!