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FP6276を使った電池3本から5Vを作るDCDC昇圧コンバーター基板を設計しています

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どうもkohaniiです。

乾電池や充電池を電源とする回路を作るときに、電源電圧が安定していないといけないことがあります。

一般的なアルカリ、マンガン乾電池の場合、新品では約1.5Vが出力されて、使用し続けると1V以下に下がります。
この1Vあたりが終止電圧=電池切れとなり、それ以下になるまで使用すると液漏れの可能性があります。
電池を3個直列にして使用すると新品の時は1.5V×3 = 4.5Vくらいの電圧が出て、3Vくらいまで下がりますので、電池を使う回路を3V ~ 4.5Vのどの範囲でも動作するように設計する必要があります。

例えば、ESP32などのマイコンなどは電源が3.3Vで動作することを前提として作られて、動作電圧は3.0V ~ 3.6Vの間である必要があり、その範囲外では正常な動作が保証されません。
そのため以前には乾電池2本で動作するESP32を設計し商品化しました。

ただ、以前作った回路はマイコンが動く電流さえ取れれば良い電流の限られたICで、電池から大電流を取る用途には向きません。

なので電流の取れて低電圧からでも動作するDCDCコンバーターICを探しました。

あまり高価な部品は使いたくないので、中国の電子部品通販サイトのLCSCで調べると、良さそうな部品が見つかりました。

Advanced Analog Technology FP6276XR-G1
https://www.lcsc.com/product-detail/DC-DC-Converters_Advanced-Analog-Technology-FP6276XR-G1_C114313.html

LCSCの「Advanced Analog Technology FP6276XR-G1」のページのスクリーンショット

このICを使った昇圧コンバーター基板を設計してみます。

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FP6276XR-G1

これはSOP-8-EPパッケージの同期式のPWM昇圧コンバーターICです。

データシートの1ページ目の一部を参考として載せておきます。

FP6276のデータシートの冒頭

この部品のデータシートはこちらから
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1806120413_Advanced-Analog-Technology-FP6276XR-G1_C114313.pdf

データシートに書いてあるように「500kHz 6A High Efficiency Synchronous PWM Boost Converter」です。

データシートにある機能ブロック図はこのようになっています。
実際のICのピン配置とは位置関係が全然違うので注意してください。

FP6276のデータシートのFunction Block Diagram

左にあるFBピンが出力電圧をフィードバックするための入力です。

ピン配置

データシートに書いてあるピン配置は以下のようになっています。

Pin Descriptions
Name No. I/O Description
LX 1 I Power Switch Output
LX 2 I Power Switch Output
VIN 3 P IC Power Supply
EN 4 I Enable Control (Active High)
GND 5 P IC Ground
FB 6 I Error Amplifier Inverting Input
VO 7 O Output Voltage Pin
VO 8 O Output Voltage Pin
PGND EP P IC Power Ground(Must Connect to GND)

SOP-8L EP(背面パッド付き)パッケージです。

FP6276のデータシートのPin Descriptions

かなり大電流が流れる部品ですがSOP-8パッケージに収まっています。

足の間隔は1.27mmピッチなので、一般的な2.54mmピッチのユニバーサル基板の2倍の細かさです。

細い1つのピンで出力やスイッチの電流を流せないので、LXピンとVOピンは2ピンずつ出ています。

背面パッドはパワーGNDなのでしっかり強いGNDに接続する必要があります。
そしてこの背面パッドは内部で発生した熱の排熱も兼ねているため、ベタGNDなどの広い銅に接触されて放熱する必要がありそうです。

絶対最大定格

データシートに書いてある絶対最大定格はこのようになっています。

Absolute Maximum Ratings
Parameter Symbol Conditions Min. Typ. Max. Unit
Supply Voltage VIN 0 6 V
LX Voltage VLX 0 7 V
EN,FB,VO Voltage 0 6 V
Thermal Resistance (Note1) θJA OP-8L(EP) +60 °C / W
Junction Temperature TJ +150 °C
Operating Temperature TOP -40 +85 °C
Storage Temperature TST -65 +150 °C
Lead Temperature (soldering, 10 sec) +260 °C

昇圧コンバーターですがIN電圧は6Vまでに対して、LX電圧(インダクタを繋ぐピン)は7Vまでです。
そしてVO電圧(出力電圧ピン)が電源電圧と同じ6Vです。

DC 電気的特性

データシートにあるDC 電気的特性はこのようになっています。
DC Electrical Characteristics (VIN=3.3V, TA=25°C, unless otherwise specified)
Parameter Symbol Conditions Min. Typ. Max. Unit
Input Voltage VIN 2.4 4.5 V
Under Voltage Lockout VUVLO 2.1 V
UVLO Hysteresis 0.1 V
Quiescent Current ICC VFB =0.65V, No switching 280 µA
Average Supply Current ICC VFB=0.55V, Switching 3.6 mA
Shutdown Current ICC VEN=GND 0.1 µA
Linear Charge Current ICHARGE VOUT<VIN 3 A
Operation Frequency fOSC VFB=0.55V 500 kHZ
Maximum Duty Ratio % 90 %
Feedback Voltage VREF VIN=4.5V 0.588 0.6 0.612 V
Enable Voltage VEN 0.96 V
Shutdown Voltage VEN 0.6 V
Soft-Start Time tSS VIN=4.5V 7 ms
High Side Switch RDS(ON) RON-PMOS 40
Low Side Switch RDS(ON) RON-NMOS 40
Switch Current Limit IOCP 6 A
Thermal Shutdown Threshold TOTP 150
Thermal Shutdown Hysteresis 30

Input Voltageが2.4V ~ 4.5Vの間で安全に動作するようです。
絶対最大定格が6Vなので5Vくらいまでは壊れずに動作しますが、これは昇圧コンバーターなので、出力電圧以上の入力では降圧せずに出力されるので意味がありません。

Under Voltage Lockoutが2.1V typなので、入力電圧VINが2.1Vを下回ると不安定な動作を避けるために動作を停止するようです。

Quiescent Current(スイッチ無動作時)は280µAなので、負荷が無い場合はほとんど電気を消費しないようです。
ですが、スイッチ動作時では平均3.6mAですから、負荷がある状態では少し電気を消費します。

このICにはシャットダウン機能が付いていますので、シャットダウン機能を有効化した時の消費電流はたったの0.1µAまで減ります。
電池で駆動している場合でシャットダウンを使用すれば、電池の電力の消費はほぼ無くなります。

Linear Charge Currentという項目で3A Min.ありますが、調べてみてもよくわかりませんでした。
3Aがインダクタに流れるということですかね?ちょっとわかりません。

Operation Frequency、つまりスイッチング周波数は500kHz typ.です。
小型のスイッチングICの1 ~ 2MHzなどと比較すると少し低い気もしますが、周波数としては十分高く人間の可聴域も十分超えているので、音声信号に対してノイズが乗ったとしても聞こえたりしないはずです。

Feedback Voltageは0.6V typ.です。0.588V ~ 0.612Vの範囲なので0.6V±2%ですので、基本的な部品の電源では誤差は無視できる範囲内だと思います。
一部のスイッチングコンバーターICなどではこの電圧は1.25V(バンドギャップリファレンス)だったりもう少し高い電圧だったりしますが、このICではトランジスタのベース電圧っぽい0.6Vになっています。

そしてこのICの説明の「6A」の由来はこのSwitch Current Limitで、6Aになっています。
中に入っているパワーMOSFETに一瞬でも6A以上の電流が流れると、内部で6Aまでの電流制限がかかるのだと思います。

Thermal Shutdown Thresholdが150度なので内部温度がこの温度を超えると停止します。
その頃には指で触ると火傷するほどの温度になっているはずで、正しく設計していればこの機能が動作することはないはずです。

推奨動作状態

データシートに推奨動作状態はこの通りです。

Recommended Operating Conditions
Parameter Symbol Conditions Min. Typ. Max. Unit
Supply Voltage VIN 2.4 4.5 V
Operating Temperature Range TA Ambient Temperature -40 +85 °C

VINはDC 電気的特性と同じ2.4Vから4.5Vで使うことが推奨されています。

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回路の設計

このICを使った回路を設計します。

設計はKiCad 7.0を使います。

データシートに標準アプリケーション回路が掲載されているのでこの回路をベースに設計します。

FP6276のデータシートのTypical Application Circuit

設計した回路図はこうなりました。

KiCadで設計した回路図

入力コンデンサ

入力コンデンサで入力電圧を平滑します。

まず330µF 6.3Vの固体コンデンサで平滑します。

次に10µF 6.3Vの積層セラミックコンデンサを2個で合計20µFの平滑をします。
ただしこの積層セラミックコンデンサは0806inサイズでDCバイアス特性が悪く、5Vの電圧がかかると10µFが4.74µFに減るので実質合計9.5µFになります。

100nFの積層セラミックコンデンサはICの電源のデカップリングコンデンサで、ICに近くに配置し動作を安定化させます。

回路図の入力コンデンサ部分のスクリーンショット 左から330u、10u、10u、100nのコンデンサが並んでいる

インダクタ

インダクタは3.3µHのフェライトコアの表面実装インダクタにしました。
これはデータシートに1.5µHから4.7µHのインダクタの選択が推奨されているため3.3µHにしました。

Inductor Selection Inductance value is decided based on different condition. 1.5uH to 4.7μH inductor value is recommended for general application circuit. There are three important inductor specifications, DC resistance, saturation current and core loss. Low DC resistance has better power efficiency. Also, it avoid inductor saturation which will cause circuit system unstable and lower core loss at 500KHz.

回路図のFP6276付近 ダイオードがない

ブーストコンバーターなのにダイオードが回路に無いことが不思議に思うかもしれませんが、これはICにMOSFETスイッチが入っていて内蔵型になっているためです。

ICの機能ブロック図にあるVOとLXの間のPch MOSFETがダイオードと同じ役割をするはずです。

FP6276のデータシートのFunction Block DiagramのLX部分付近

ENピン

ENピンにコンデンサと抵抗を入れていますが、これはデータシートに書いてあった物をそのままつけてあります。

データシートには何故これを追加するかどうかの説明はありません。
もしかしたらENピンがノイズで誤動作しないようにRCローパスフィルターを形成しているのかもしれません。

回路図のFP6276のENピンからC5 1nとR1 10kとENラベル

ENピンは約1V以上の電圧を入力すると通常動作して、0Vにするとシャットダウンします。

なおENピンにはプルアップなどは内蔵されていないので、繋がずオープンにすると誤動作する可能性があり、動作時にはVCCに繋ぐ必要があります。

出力電圧設定

出力側の説明です。

出力の電圧はFBピンに出力電圧をフィードバックすることで設定します。

回路図の出力電圧を設定する22k R4 100k RV1 10k R2 4.7k R3

出力電圧の設定方法は以下の通りです。

下の図は設定するための回路を単純化したものです。

VOピンを平滑した電圧VOを抵抗でGNDと分圧して、VOが設定したい電圧になった時にFBピンが0.6Vになるように設計します。

電圧設定の簡易回路図 VOからR1を通りFBに、FBからR2を通りGNDへ

VOUT =  0.6 * (1 + R1 / R2) で設定できます。

この基板ではR1を可変にして、
R1 = 22k ~ 122kΩ
R2 = 14.7kΩ
にしましたので、約1.50V ~ 約5.58Vになります。
ただしこのICは昇圧のみなので、最低電圧が2.4Vに固定されているため1.5Vまで下がることはないはずです。

出力コンデンサ

出力はコンデンサで十分に平滑します。

まず100nFの積層セラミックコンデンサをICのVOの近くに配置して高周波の平滑をします。
この平滑の後をフィードバックします。

次に10µF 6.3Vの積層セラミックコンデンサを2個で合計20µFの平滑をします。
ただし前述の通りDCバイアス特性により5Vの電圧がかかると10µFが4.74µFに減るので実質合計9.5µFになります。

最後に330µF 6.3Vの固体コンデンサで平滑し、出力します。

FP6276のVOからの100n C6 10u C7 10u C8 330u C9コンデンサ

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基板の設計

回路図が出来上がったので基板を作ります。

基板設計もKiCad 7.0を使います。

出来上がった基板はこのようになりました。

KiCadのPCBエディターのスクリーンショット

VCCやLX、VOUTの配線部分にはベタを使ってできる限り太くしたつもりなので、大きい電流が流せるはずです。
ただこのICが3Aまでしか流せないため、配線の抵抗値が低くなったという方が正しいかもしれません。

電源入力

基板の電源入力付近

左にある上下のコネクタは電源入力のVCCとGNDです。
上のVCC(電源入力)の下には2つの10µFセラミックコンデンサがあり、下のGNDの上には10個ビアを打っておきました。

GNDの右には330µFの固体コンデンサがあり、VCCの右にはインダクタがあります。

FP6276

基板のFP6276付近

真ん中上にある6個ビアが打ってあるものがFP6276です。
背面パッドは排熱とパワーGNDなので、両面のGNDベタに電気的にも熱的にも結合させるためビアを打っておきます。

FP6276の左下のパッド(黄色)はイネーブル入力のピンヘッダ用のスルーホールです。

FP6276の右から右上には100nFの平滑セラミックコンデンサをVOピンから近いところに配置しました。

電圧設定

基板の電圧設定付近

FP6276の右下から下には電源電圧を設定する抵抗と半固定抵抗です。
スイッチングノイズを拾わないように配置したつもりですが、入力GNDと出力GNDを繋ぐための太いGND配線が半固定抵抗のピンの間を通ります。

電源出力

基板の電源出力付近

10µFの2個の平滑セラミックコンデンサを配置しました。
セラミックコンデンサの上側はGNDです。

右にある上下のコネクタは電源出力のVOUTとGNDです。
すぐ左には出力の330µFの固体コンデンサがあります。

ティアドロップ

KiCad7からティアドロップができるようになったのでついでに設定してみました。

代わりに、昔から有る有志が制作したティアドロッププラグインはPython APIの互換性が無くなったため動かなくなりました。

KiCad 7.0の「ティアドロップを追加」ウィンドウ

基板の円形のスルーホールやビア、チップ抵抗とかチップコンデンサで見ることができます。

ティアドロップが追加されていることを示す丸がついた基板のスクリーンショット

この配線画面では基板がどうなっているか分かりづらいため、KiCadの3Dビューアーで確認するとこのようになります。

KiCadの3Dビューアーで表示した基板の表

上からの表示で平行投影に設定したため奥行きが無くなっています。
配線画面ではGNDベタなどが半透明で表示されていましたが、3Dビューアーでは基板を銅データにした上で表示されるため実際の基板に近くなります。

出力のGNDのシルクが左に寄っているのは、固体コンデンサがあって上に入りきらなかったためです。

裏面です。
KiCad7からテキストツールでカスタムフォントが指定できるようになったため、パソコンに入っているフリーフォントを使って裏面シルクスクリーンに説明を書いてみました。

KiCadの3Dビューアーで表示した基板の裏 シルクスクリーンで説明が書いてある FP6276 PWM ~5.3V 3A Boost Converter Input range: 2.4V ~ 4.5V (Max 6V) Output range: 1.5V ~ 5.3V Switch Current Limit: 6A EN: Active High

テキストの設定はこのようになっています。
テキストのプロパティーに新しく「フォント」という設定があり、パソコンに入っているTrueTypeフォントを使うことができます。

KiCad7の「テキストのプロパティ」ウィンドウ

今回は英語しか使いませんでしたが、もちろん日本語も扱うことができます。

フォントはGoogle FontsにあるFredokaを使いました。
Open Font Licenseで商用利用、ライセンスの明示をすれば再配布も可能です。

なおこのフォントはASCII文字やラテン語のみ収録していて日本語は扱えません。

面付け

この基板は小型で、基板屋さんが10cm×10cmのサイズ以下で値段が変わらないので複数を連結して1基板にします。

2×4で基板をコピーして8個をくっつけました。

面付けして2×4に複製して上下に耳をつけた基板

比率的に余りになる上下に捨て基板を作り、リフローをするときのハンダペーストのステンシルを基板に位置合わせしやすいように穴を開けています。

位置合わせについては以前に記事にしているので記事を参照してください。

複数の基板を切り離せるようにV-CUTを入れて曲げて外せるようにしています。
文字通り断面がVの字で切り込みが入るので曲げると取れます。

V-CUTをEdge.Cutsからシルク面にして3Dビューアーで表示するとこのようになります。

KiCadの3Dビューアーで表示した面付け済みの基板の表

この白い線が入っているところにV-CUTが入ります。

角が丸みのある形状の基板の間を繋ぐ部分がプラスマークのようになっているのは、基板を加工するときにドリルが加工しやすいように配慮したためです。

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PCBWayに発注

先日作ったCH552書き込みツールと一緒に、PCBWayへ基板を注文します。

面付けした基板が5枚で$25くらい、メタルマスクが$10でした。

支払いを行い基板の発注完了です。基板が届いたら組み立ててみようと思います。

追記: 続きを書きました