背面パッドのあるICを使った時にハマってしまったというお話です。
HT8693パワーアンプICの実験
HT8693はハイパワーのD級パワーアンプICです。とても簡単な回路で大きな出力が得られます。入力の抵抗値でゲインが変えられます。このICを使ったパワーアンプの実験してみようと思いました。
HT8693はハーフピッチのSOP ICです。ブレッドボードで実験するので、変換基板を使ってDIPに変換ます。
ブレッドボードに回路を組んで実験です。ところが、入力信号を入れても音が出ません。D級なので入力が無信号でも何かしら出力信号が出るはずなのですが、オシロスコープで出力波形を見ても何もありません。
パスコンがICの近くにないといけないのかなと思い、表面実装のコンデンサをつけましたが変化はありません。最終的には上の写真のように、全ての部品をICの直近につないでみましたが動作しませんでした。
オシロスコープで調べていると、電源を投入した瞬間に数サイクルだけ発振し、波形が徐々に弱まり停止していることがわかりました。出力がどこかにショートしてICの動作が停止している感じがします。
はんだ付けの熱で壊れたのかなと思い、この基板は諦めてもう一つ作ってみようとした時、気が付きました。このICには背面パッドがあります。また、変換基板にも背面パッドの場所にレジストのないビアが複数あります。
HT8693の背面パッドはこのICのどのピンにも接続されていませんが、このパッドによって基板のビア同士が接続されてしまい、動作不良を起こしていると考えました。
基板のビアを絶縁して再実験
それではビアをポリイミドテープで絶縁して、ICをはんだ付けしてみましょう。
音が出ました!表面実装部品を直近に接続することなく、ブレッドボードに組んだ回路で正常に動作しました。とても使いやすいICであることがわかりました。
変換基板のビアに注意
最近は出力が大きなICが増えてきて、背面パッドがあるICも良く見るようになりました。変換基板のビアにレジストが塗っていない場合には、ショートしてしまうので注意が必要なことがわかりました。
変換基板を自作する
今後同じような問題に遭遇しないように、変換基板を自作することにしました。ビアの問題だけでなく、変換基板内の配線が細いのも大電流のICには不向きです。
そこで、
- ビアにはレジストを被せる
- 配線は太く
- パスコンも実装
という変換基板にしたいと思います。
ということで、先日公開したJLCPCBに変換基板を注文する記事の流れになります。配線はパッドの幅と同じ0.5mmにしました。
オペアンプを想定し、1番ピンと5番ピンの間にバイパスコンデンサを実装できるようにします。
この基板を8x8個面付けしてJLCPCBに発注しました。
発注する時の注意点は、ビアにレジストを被せたいので「Via Covering」を「Untented」以外にすることです。最もコストの安い方法は「Tented」です。
「Via Covering」の違いは以下の通りです。図は基板の断面を表しています。
Untented:ビアの上にレジストを塗りません
Tented:ビアの上にもレジストを塗ります(ビアの中に空洞ができます)
Plugged:ビアの中にもレジストを充填します
Epoxy Filled:ビアの中にエポキシ樹脂を充填します
どうしてこのように種類があるかというと、「Tented」の基板はリフローの時にビアの中の空気が膨張して、レジストが破裂することがあるためです。レジストの破裂により、このビアの周辺にある部品が吹き飛んだり、位置がずれる恐れがあります。
この現象を防ぐために、リフローの時の膨張した空気が逃げるよう「Untented」が、そもそも空気が封じ込められないように「Plugged」「Epoxy Filled」があります。
「Tented」の基板でもリフロー時の破裂が気になる場合には、実装する前に基板を一度リフロー温度で焼いておけば、ビアが破裂しリフロー時に破裂するリスクが軽減できます。
今回の基板は手はんだで部品を実装するので、破裂など気にせず一番安い「Tented」で十分です。
変換基板が届く
注文して10日ほどでJLCPCBから基板が届きました。
右が市販品で、左がJLCPCBに作ってもらった自作基板です。自作した変換基板は、ビアにレジストが塗られていて、配線も太くなっています。届いてから気づきましたがパスコンの「C」の文字の向きが上下逆さまでした😭。
基板は5枚作ってもらったので、64個×5枚=320個と一生使っても使い切れない数の変換基板が作られました。これで気兼ねなく変換基板を使えます。
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