高電圧を生成することができるタップドインダクタ昇圧回路で、ニキシー管の電源が作れないか実験をしてみました。
タップドインダクタ昇圧回路とは
上の回路は、普通の昇圧回路です。コイルにためたエネルギーを一気に解放することで、入力電圧よりも高い電圧を得ます。
昇圧回路で使っているコイルの途中にタップをつけて、そこの電流を引き込むように変更したのが、タップドインダクタ昇圧回路です。
タップドインダクタ昇圧回路のメリットは、コイルの途中にMOS-FETが接続されているので、高電圧がMOS-FETのドレイン端子に印加されないことです。このため耐圧の低い、小型のMOS-FETが使えます。
例えば200Vの昇圧を行うと、通常の昇圧回路ではMOS-FETのドレイン端子に200V以上の電圧がかかるのですが、タップドインダクタであれば、巻線比の分だけ小さくなります。
タップドインダクタは、見方を変えるとトランスです。トランスを上記のように接続することで、タップドインダクタ回路にすることができます。
タップドインダクタ昇圧回路は、比較的簡単に高電圧を発生することができますが、デメリットもあります。普通の昇圧回路に比べて、効率が悪いのです。これまでの経験で、効率は良くて40%くらいです。
昇圧実験
実験回路
それではタップドインダクタの昇圧実験をしてみましょう。トランスには1:10の小型トランスを使ってみます。
PWMジェネレータには、以前作ったPadauk PFS123を使った回路を使います。周波数は100kHzで80ステップを1周期とし、1から31ステップまでON時間を可変できます。
ダミーロードには、347kΩの抵抗を1つずつ、最大20個までスイッチで接続できるようにしたものを使います。ニキシー管で使う電圧である175Vの場合、1つのスイッチをONすると0.5mAの負荷になります。
上の写真がタップドインダクタ昇圧回路です。とても小さく作れることがわかります。
実験の様子です。手前の黒い基板がダミーロードです。奥にある7セグと黒い基板がPadauk PFS123を使ったPWMジェネレータ、右下が昇圧回路です。
PWMのONの幅を上げていくと、出力電圧も上がっていきます。7セグが8なので、8/80の期間ONしているPWMになります。負荷1つ(348kΩ)での出力電圧は189Vです。
波形を見てみましょう。黄色はMOS-FETのゲート電圧、水色はコイル電流、紫はMOS-FETのドレイン電圧になっています。
黄色がゲート信号なのですが、PadaukのマイコンはIOピンの出力電流がとても弱く、立ち上がり立ち下がりが遅いのがわかります。
水色がコイルの電流波形です。MOS-FETのゲートがONすると、コイル電流が単調増加しているのがわかります。現在100kHzのPWMになっていますが、充放電の周期からすると200kHzでも良さそうです。
紫色がMOS-FETのドレイン端子に加わっている電圧です。180Vもの出力電圧なのですが、ドレイン端子の電圧は15V程度です。タップドインダクタのおかげで低い電圧でスイッチングできています。
100kHzでのPWM ON時間と電圧の関係
負荷の数による、PWMのON時間と出力電圧の関係を調べてみました。
PWMのON時間が長くなるほど、出力電圧も上がることがわかります。また、負荷が大きくなるに従い、出力電圧の上昇が弱くなります。つまり、負荷に応じてPWMのON時間を変更しないと、175Vを維持することができないということです。
またONのステップ数が17を超えると、入力電流が時間とともにどんどん上昇していく現象が起きました。トランスが熱暴走しているようです。どういうことかと言いますと、大電流によりトランスが加熱するとトランスのインダクタンスが減少します。するとコイル電流が増えます。するとコイルがさらに熱くなってインダクタンスがさらに下がります。これが繰り返し起こり、コイル電流が時間と共に増大してしまうのです。今回の場合、熱暴走が起きないよう、ONのステップ数は17以下で使う必要があります。175Vでステップ数17以下となると、175V出力での負荷は2.5mA程度が限界のようです。
200kHzでのPWM ON時間と電圧の関係
スイッチング周期を半分にしても、コイルの充放電が間に合うことから、PWMの周波数を倍の200kHzに変更してみました。
ON時間と出力電圧の関係を調べてみました。100kHzよりも出力電流が大きく取れるようになりました。
ON時間が14ステップを超えると、入力電流が増加する熱暴走が発生しました。ONステップが13以下で175V以上とすると、最大電流は3.5mA程度でしょう。100kHzの時は最大が2.5mAだったので、少し多く電流を取り出せるようになりました。
トランスを2個にしてみる
出力電流をもっと増やしたいので、トランスを2個使ってみます。トランスの1次側は並列に接続し、2次側は直列に接続します。こうすることで、1次側の電流は2倍に増えて、2次側の電圧も2倍になります。
トランスを2つ、2階建てに配線しました。
ON時間による出力電圧のグラフです。トランスを2つにすることで、抵抗12個(6mA相当)でも175Vを維持できています。出力電流が倍に増えました。
ONのステップ数を13以上にすると、入力電流が増加するトランスの熱暴走が発生しました。ONのステップ数は12以下にする必要があります。
効率を計算してみました。40%以下と、あまり良い効率ではありません。
さて次回は
タップドインダクタ昇圧回路で、175V以上の高電圧を、最大で6mA程度発生させることができました。これであれば、ニキシー管の電源として使えそうです。
しかしながら、負荷によってPWMのON時間を調節しないと、出力電圧を一定に保つことができないこともわかりました。
そこで次回は、出力電圧をPadaukマイコンにフィードバックして、175Vを維持できるようプログラムと回路を改良したいと思います。
2025.1.23 続きはこちら


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