どうもkohaniiです。
以前ハードオフで110円で売っていた、AV-6370というタイムベースコレクタを購入しました。
松下電器産業(現パナソニック)、松下通信工業(現パナソニック モバイルコミュニケーションズ)製で、製造年月は1992年7月(30年前)です。
無事電源も入り映像も出ているのですが、画面の右側の色むらがあって、正確な映像が必要な時のためには使えませんでした。
今回はその問題を直す修理をします。
入力映像
映像を確認したり修理するときに、正確な入力の映像は欠かせません。
このタイムベースコレクタは映像入力として、コンポジット映像、もしくはSビデオかY C、もしくはY R-Y B-Y(コンポーネント映像)を入力します。
映像の問題を確認するには、一番内部が複雑な処理をする映像形式が必要なので、コンポジット映像信号を入力します。
テストパターンジェネレーターはWii
で、現在テストパターンジェネレーターなどを持っていませんので、Wiiを使うことにします。
Wiiは2006年発売で、まだ出力はアナログ映像の世代でコンポジット映像、Sビデオ、コンポーネント映像を出力できます。
デジタル映像(HDMIなど)はAVマルチ端子に信号が出ていないので出力できません。
アナログ映像世代と言ってもかなり後期で、かなり技術は進んでいるはずですので、正しい映像を出してくれていると思います。
有志によるWiiの自作ゲーム向けのWikiにビデオエンコーダーのレジスター一覧などがあり、解析された結果によると、デジタル映像データをBT.656の規格で、AVE-RVLという名のオーディオビデオエンコーダーのカスタムICに送られているようです。
なので規格上デジタル映像データ上では、輝度の映像は720x480の解像度で、色差の映像は(データの規格上YUV 4:2:2のため横解像度は半分の)360x480の解像度で、それがエンコーダーによって映像信号になるはずです。
ただ、これはゲーム機ですので、テストパターンなどは出力しません。
これがホーム画面をタイムベースコレクタを通して撮ってみたところです。
このとき録画の設定を間違えて画面端に黒いボーダーがありますが無視してください。
あれ、ゲーム一覧の右下に見慣れないゲームがありますね。
これはHomebrew Channelといって、SDカードから自作のゲームなどを起動できるようになるソフトウェアです。
まあ詳しいことは開発者向けのWikiなどを見てください。
Homebrew Channel
https://wiibrew.org/wiki/Homebrew_Channel
このソフトウェアを使用してテストパターンを表示するソフトウェアが起動できるようになります。
240p test suite
240p test suite
https://junkerhq.net/xrgb/index.php?title=240p_test_suite
240p test suiteは、主にレトロゲーム機を使ってノンインターレースの240pのテストパターンの映像を出力する無料でオープンソースのソフトウェアです。
この中でWii版があったのでそれを使います。
フォーマットしたSDカード(今回使ったのは8MBのSDカード)のappsフォルダにzipを解凍して入れてからSDカードをWiiに差し込み、Homebrew Channelから起動すればテストパターンジェネレーターの完成です。
起動するとこんな画面で、色々なテストの映像、画面を選んで出力できます。
起動時には240pの映像を出力するのですが、規格通りの正しい映像はインターレースなので設定で480iに変更します。
設定した480iは240pを縦に2倍に引き延ばしているだけで、実質の解像度は240pです。
症状
コンポジット映像をタイムベースコレクタを通して出力のY R-Y B-Yを録画して確認します。
まず全面白色の画面を表示してみると、このように右の方に向かって暗く、そして緑色になります。
この画面を画像編集ソフトで色をYUVに分離して比較してみるとこんな感じになります。
変化がわかりやすいように明るさの調整はしていますが、このように右の方の明るさ(電圧)が下がっていることがわかります。
次に、SMPTEカラーバー(75IRE)を表示してみます。
一見、全体が少し暗いくらいで問題なさそうですが、右の方の色と明るさが変化しているので、ある変化があります。
この矢印で示した上列左端の白と、中央段右端の白、この2つは同じ色である必要がありますが、右の方は薄黒い緑色になってしまっています。
次にテストパターンの一つの「Color Bars with Gray Scale」を表示してみます。
背景はグレーで、そこにカラーバーがある映像のはずですが、右の方が緑がかっています。
TBCの構造を調べる
前回の記事で内部の掃除をした時に基板を外せることがわかっているので、分解に関しては前回の記事を見てください。
この先基板などの構造や役割を説明しますが、全て私が憶測で考えているものですので、正しい情報であるかどうかは保証できません。
TBCの内部構造
タイムベースコレクタは上のパネルに付いたネジを外せばパネルを外せて、簡単に内部を確認できます。
全体の構造とブロックの説明はこんな感じです。
上側(本体の後ろ面)に映像用のコネクターが並んだ基板があります。
ここでは電源のフィルターや、映像ケーブルからの信号を75Ωで信号GNDに落とす負荷抵抗などがあります。
そして映像基板とつながる電源と信号用のピンコネクタがついています。
次に左側に並んでいるのが電源です。
この機材は電源に+15V、-15V、そして+5Vを必要とするらしく、コンセントのAC電源から直流電源を作ります。
スイッチング電源のようですが、かなり熱を発しています。
そして右で大きなスペースを占めているのが映像基板です。
この映像基板は2層構造になっていて2枚の基板が入っています。
上側に付いたコネクターで、コネクター基板と繋がっています。
コネクター基板
コネクター基板を外してみました。
上の全体写真に写っている裏面ではコンデンサと電源コネクタくらいしか写っていませんでしたが、表面もほとんど部品はありません。
特に多いのが映像用のBNCコネクタです。
業務用の機器なのでRCAコネクタではなく全てBNCになっています。
リモートコントロール用のD-subコネクタがありますが使い方がわからないので無視します。
コネクタの電源コネクタ側の部分には直流電源のノイズフィルターと10W 12Ωのセメントコンデンサがあります。
BNCコネクタの近くには映像信号のノイズ対策用?の小容量のセラミックコンデンサと、ノイズ対策用?でインダクタが直列で入っています。
映像信号のDCカット用のコンデンサなどはこの基板には付いていません。
映像基板の構造
まず基板の写真です。
これが上側に接続される基板です。
この基板では主にメモリからの映像の読み出し、同期生成、D/A変換と出力アンプなどを通して映像を出力をします。
そしてこれが上基板(上側の基板)で隠れている、下側の基板です。
この基板では主にビデオのデコード、同期分離、A/D変換とメモリへの書き込みをします。
そして上基板と下基板の説明付きの図です。
これらは私の憶測ですが、大体正しいと思います。
かなり細かいので画像を新しいタブで開くなどして、拡大してご覧ください。
基本的に下基板が映像の入力とメモリへの書き込み、上基板がメモリからの読み出しと映像の出力を担当している状態です。
映像はまず入力がコンポジット映像かSビデオなら色のデコードをして、Y B-Y R-Yのコンポーネント映像に変換されます。
そしてY B-Y R-Yごとにフィルターとビデオ入力アンプを通ってA/Dコンバータに入ってデジタル化され、そのデータがメモリに書き込まれます。
そして1フレーム経った後のデータを読み取りD/Aコンバーターでアナログ信号化され、フィルターとバッファを通って、コンポジット映像とSビデオへのエンコードをして、それとY B-Y R-Yの映像をビデオアンプに通して出力します。
下基板のメモリ書き込みロジック部分の写真です。
搭載しているメモリチップのOKI M514221A-4を調べてみると、正式にはMSM514221Aという名で1Mbit(256kワード × 4bit) 40ns読み書きサイクルのDRAMを使ったFIFOメモリチップで、この機器では8個使っているようです。
FIFOメモリの容量としては8Mbitで、1画素あたりY B-Y R-Yを各8bit(3バイト)使っているとして、全480ラインの映像を記録するとなると、1ラインあたりの画素数は約748画素となったので、十分なメモリ容量のようです。
下基板のA/Dコンバーター周辺の基板です。
映像信号の変換などのほとんどはアナログで実装されています。
この写真の右上に3つ並んだ少しピッチの細かいDIPのICはAN8120KというA/Dコンバーターで、松下電子(現パナソニック)製の8ビット フラッシュ型の200Mサンプル/sの高速なA/Dコンバーターらしいです。
そして写真中央の垂直に立っている3つの基板はビデオ入力アンプのようです。
基板スペースの関係上別基板にして、3種類の映像信号全てに同じ基板が使えるようにしてあるようです。
基板と同じ数あるその右上にあるのはJRCの7805 5V出力のシリーズレギュレーターです。
おそらくこのビデオ入力アンプが電気を食って周囲やそれ自体への電源のノイズを嫌ったため、アンプごとに個々でレギュレーターを使うことにしたようです。
実はこのレギュレーター、アナログなのでスイッチングレギュレーターと比べると効率が悪いのはもちろんなのですが(ただしノイズは少ないはずです)、アンプが電流を必要とするのか、かなり熱が発生します。
レギュレーターは基板にねじ止めされているため、基板全体に熱を分散して熱暴走することはないと思います。
ただ、このレギュレーターの熱が他の部品へ熱として伝わるので、ただでさえ30年以上前の機器なのに熱で劣化しやすい電解コンデンサなどが心配です。
原因を調べる
原因を調べてみます。
入力映像は波形が単純で色の変化がわかりやすい、全面が白の画面にしました。
まず映像入力部分のある下基板から調べてみます。
本来は下基板の上に上基板があり、2つ搭載されている状態で稼働するのが普通なのですが、下基板の信号を調べるために上基板を外し電源を入れています。
今回試したところ問題なく動いていますが、この使い方を想定しているかはわかりませんし、試す方は自己責任でお願いします。
まず下基板の映像のデコード終わりのY(輝度)信号出力をオシロスコープで調べてみます。
この信号はコンポジット映像から色情報などを除去して、輝度信号になりたての信号です。
どうやらこの抵抗のピンがA/D前のビデオ入力アンプの入力のようです。
このデコード終わりのY(輝度)信号をオシロスコープで見てみると、同期、ブランキングエリア、表示部分も揃った完璧な状態のようです。
この信号の一番下の短いパルスが水平の同期信号です。
このパルスの幅、間隔、電圧が規格外になったりすると、モニターの表示が崩れたり、デジタル機器では表示さえされなくなってしまいます。
そしてその同期信号の前後にあるのが映像のブランキングエリアです。
同期の後にあるのがバックポーチと言って、カラーのコンポジット映像には色の基準信号のカラーバーストがあります。ですがこの信号はカラー情報を除去した輝度信号なので何もありません。
同期の前にあるのがフロントポーチと言って、ここには特に信号はありません。
このフロントポーチやバックポーチの部分の電圧が黒の基準(0V)になっています。
なので正しい映像では一定でなければいけません。
ブラウン管モニターではこのブランキングエリアの間に電子ビームの走査を画面左に戻したり、デジタルモニターではこの間にデータの処理をしたりします。
そしてそのブランキングエリア以外の上の方の電圧の高い部分が表示される映像信号です。
この場合は全画面が白の映像を表示しているため一定の電圧になっています。
正しい映像に見えるので、この時点では問題は発生していないようです。
では今度は上基板のY信号のD/Aコンバーターの出力ピンと思われるピンをオシロスコープで見てみます。
この信号は、先ほどのデコード済み映像をフィルターとアンプを通ってA/D変換されデジタルデータになり、メモリで遅延されてこのD/Aコンバーターでアナログ化されたものです。
波形を確認してみると、なんということでしょう、1ラインごとに右に行くほど電圧が下がる波形が出ているではありませんか。
つまり、D/Aコンバーターの前、デジタルデータになる以前に問題が発生しているということになります。
アナログ的にこのような歪んだ波形になる場合、直流カット用の電解コンデンサの容量抜け(なにせ30年以上前の製造品)による過度の低周波カットなども考えられます。
(メモリのデジタルデータ内でこのような波形になる可能性は低いと考えました)
さて、どこの部分からこの問題が発生しているか調べる必要があります。
運よくビデオ入力アンプの出力にはテストポイントがあり、その端子をオシロスコープで見てみます。
すると、なんということでしょう、この時点で波形が傾いて、さらにブランング部分も揃わずおかしな波形が出ています。
隣にR-Yの色差信号のテストポイントもあるので確認してみます。
すると、なんということでしょう、色のない白色画面なので表示部分では電圧の変化は発生しないはずですが、逆ノコギリ波状の波形が出力されてるではありませんか。
どうやら映像信号がなくてもこの右に行くほど電圧が下がる現象が起きるようです。
ビデオデコーダーの出力では問題が発生していない、ビデオ入力アンプの出力では問題が発生している。
つまり!原因はビデオ入力アンプのどこかにあるということです。
原因発見!
原因はビデオ入力アンプにあるのがわかったので、垂直に刺さったアンプ基板の信号を手当たり次第に確認していると、怪しい信号を発見しました。
14ピンDIP ICの13ピンです。
ICの型番は確認できていませんが、おそらくビデオ用のアンプICです。
そのピンの波形はこちら。写真が少しブレてしまいました。
映像(約2Vp-p)と比べると電圧は0.1Vp-pと低いですが、確かに逆ノコギリ波が出ています。
このICのピン以外にもこの信号が出ていないか探してみると、その近くにある表面実装のセラミックコンデンサの片側の端子からも、ほとんど同じ逆ノコギリ波の信号が出ていました。
下の写真ではアンプ基板にある問題のセラミックコンデンサの信号が出ている端子をテスターのプローブで示しています。
右下にはその部分のズームとそのコンデンサを赤丸で強調しています。
このセラミックコンデンサの上側の端子から信号が出ていて、下側の端子はGNDに繋がっています。
ところで、この動画は映像の出力中にTBCの電源を切って、数秒後に電源を入れた時の動画です。
電源がオフになっても色が少し残り、その後完全に暗くなり、電源をつけると(録画の映像同期ラグで少し最初が切れますが)暗闇からまず色が出てきて、それから輝度が現れます。
この逆ノコギリ波の信号は、電源を入れてから映像が表示される前から出ています。
おそらくこの電圧はD/Aに送る信号のビデオアンプのバイアス電圧です。
つまり、この色の現象はこのノイズが増幅され映像に加算された結果、右にかかって電圧が下がるようになるわけです。
修理
原因は分かったので修理します。
この問題のコンデンサの容量は分かりませんが、とりあえず大きければ良さそうなので、Yのビデオアンプに1uFのセラミックコンデンサを追加してみます。
元からあったコンデンサの問題の端子と、近くにあったGNDの端子に追加でコンデンサを繋げます。
コンデンサを追加したのでアンプの出力のテストポイントの電圧をオシロスコープで確認してみると、しっかり波形も正しくなりました。
アンプはY B-Y R-Yの計3つあるので全て同じ対策をしました。
最初のY用アンプは基板の近くにGNDがあったので良かったんですが、他の2つは近くにGNDが無かったのでケーブルで近い所から引っ張ってきました。
一つはレギュレーターのGND、もう一つはロジックゲートの近くのGNDです。
ロジックゲートの近くのGNDから取ってくるのはあまりおすすめしません。
直った!
テストパターンの「Color Bars with Gray Scale」を映してみると色の傾きもなく正しく映るようになりました!
修理前と後を比べるとこんな感じです。
修理前にはあった灰色部分の左右の色の違いが、修理後には無いことがわかります。
画像処理でコントラストを上げて確認すると、まだ傾きは残っているみたいですが、まあ許容範囲でしょう。
次に、SMPTEカラーバー(75IRE)も試してみましたが、これも問題なさそうです。
このカラーバーの青成分を取り出して確認してみましたが、色味も合っているようです。
一応緑成分も確認してみましたが、緑は色調整ミスで彩度が足りないのか少し傾いてしまいました。
ちなみに最初の方の240p test suiteの画面の画像も、修理後にタイムベースコレクタを通して撮影したものです。
特に色味も違和感なく映っているのはこのためです。
修理が終わったことで、このTBCが実用的に使えるようになりました。
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