以前、ニキシー管を使ったレトロな時計を作りました。そのときは、ニキシー管用のドライバICであるK155ID1や、ダイナミックスキャンするための桁ごとにフォトカプラLTV-851を使いました。
それぞれの部品は、入手性がいまいちなので、普通に手に入るトランジスタだけで、ニキシー管をダイナミックスキャンして表示する回路を考えたいと思いいます。
ニキシー管をはんだ付け
今回は、IN-14という直立型のニキシー管を使いたいと思います。4つのニキシー管をスキャンしながら表示できるよう専用の基板を作りました。回路はシンプルにこうなっています。
それぞれのニキシー管のカソード側の同じ数字同士がつながっています。A1からA4のどれかに170Vを印加し、数字のピンをGNDに接続すると、その桁の数字が表示される仕組みです。
はんだ付けが終わりました。かなり存在感のある表示装置ですね。
点灯テスト
ニキシー管を点灯させるには、170V程度の高い電圧が必要です。そこで、以前作ったニキシー管用のDCDCコンバータを使います。
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ゴースト発生
一番右の桁だけ表示されるように、線をつないだのですが、一番左も点灯してしまっています。
違う数字にすると、また違う桁がうっすらと点灯してしまいます。このゴーストは、点灯するタイミングによってどの桁が同時に光るかわかりません。また、表示している数字と同じ数字が光ってしまいまうという特徴があります。
ゴーストの原因
何もつないでいないピンに電圧が...
上の左の表は、6を点灯している時の、ニキシー管の各ピンに現れる電圧を測定した物です。6のピンはGNDに接続されているので0Vです。他のピンは何もつながっていないのですが、数10Vから100V程度の電圧がピンに発生しています。発生している電圧はピンによってバラバラですが、実は規則性がありました。
ニキシー管は、管の中に数字のプレートが1から順番に並んでいるわけではなく、モデルごとに異なる順番になっています。真ん中の表は、IN-14の数字のプレートの並び順に並び替えた表です。6の数字が管の一番表面にあり、1のプレートが一番後ろに配置されています。この順に並び替えると、表示している数字のプレートに近いほど、または、表面に近いプレートほど、ピンに現れる電圧が高いということがわかります。
このことから、次の仮説が考えられます。
上の図は、ニキシー管を簡略化して書いた回路図です。今、一桁目(右)の6を表示しているとします。赤い線が、その時に電流が流れる経路です。右のニキシー管のアノードを飛び出した電流は、6のプレートを通って、GNDに流れます。これは望ましい経路です。
この時、5のピンに高い電圧が発生していることから、先ほどの望ましい経路の他に、一桁目のアノードから5のプレートを通り、隣のニキシー管の5のプレートへと流れる電流があると考えられます。この電流はとても弱いですが、110V程度と電圧が高いために、2桁目の6のプレートをうっすらと光らせてしまいます。
ゴーストを消す対策
光っている隣の数字のプレートを経由した電流で、別の桁の数字が光らないようにするためには、各ピンの電圧を、「数字が光らない程度の電圧」に制限すれば解決します。具合的には、各ピンにツェナーダイオードを接続し、ある一定以上の電圧にならないよう電圧をクランプします。
実験
「数字が光らない程度の電圧」が何Vかわかりません。先ほどは110Vで光ってしまっていたので、100Vよりも低い必要がありそうです。手持ちのツェナーダイオードで75Vがあったので、それを使ってみます。75Vのツェナーダイオードを全てのピンに追加しました。
全体の回路図はこんな感じになります。左下にツェナーダイオードを追加しました。
ツェナーダイオードを入れると、きれいにゴーストが消えました。
他の数字でも大丈夫です。ゴーストを除去するためには、ツェナーダイオードでクランプする必要があるんですね。
各数字をマイコンでON,OFFできるようにする
各数字を正常に光らせることができるようになったので、続いてマイコンで点灯を制御できるようにしていきます。
トランジスタでスイッチング
ニキシー管の各カソードからGNDへ流れる電流をON,OFFすれば良いことから、トランジスタを使った簡単なスイッチング回路で実現できます。ただ、170Vという高い電圧をスイッチングすることから、トランジスタにはよくある2SC1815などでは耐圧が不足します。そこで、ニキシー管によく使われているMPSA42というトランジスタを使います。
MPSA42のデータシートの一部を以下に載せます。
このトランジスタは、コレクタエミッタ間の耐圧(VCEO)が300Vもあるので、ニキシー管には最適です。秋月電子でも売っています。
ベースに接続する抵抗値の計算
適当で10kΩというのもいいのですが、計算してみます。
データシートによると電流増幅率(hFE)は1mA電流を流す時で25倍です。このため、ニキシー管に3mA流すためには、その1/25倍の電流をトランジスタのベースに流せばOKです。
トランジスタのベースエミッタ間電圧は最大0.9V。マイコンの出力が3Vだとして、トランジスタのベースに接続する抵抗値は
R = E / I = マイコンの出力電圧とベースの電圧の差 / ベースに流す電流 = ( 3 - 0.9 ) / ( 3mA / 25 ) = 17.5 kΩ
少し電流に余裕を持たせるため17.5kΩより低くて、入手もしやすい値として、10kΩとします。
回路を作る
クランプ用のツェナーダイオードと、トランジスタ、抵抗を一つの基板にはんだ付けしました。
実験
無事に光りました。各数字に対応するピンに3Vの信号を入力することで、その数字が光りました。今回はコンマも点灯させてみました。コンマは流す電流が0.3mA程度と小さいことから、100kΩの抵抗を直列に入れてあります。
各桁をマイコンでON,OFFできるようにする
続いて、各桁をマイコンで制御する回路を設計していきます。ニキシー管のアノードをON,OFFするには、170Vくらいの電源側をON,OFFすることから、フォトカプラが便利でよく使われます。ここをトランジスタで実現します。
トランジスタで電源をON,OFF
PNPのトランジスタと、NPNのトランジスタの2つを使って、ハイサイド側をON,OFFします。NPNトランジスタは先ほどニキシー管の数字をON,OFFするのに使用したMPSA42です。PNPトランジスタは、MPSA42のPNP版のMPSA92を使います。NPNがPNPになっただけで特性は同じです。
さて、各抵抗値を計算していきます。まずはR1から。MPSA92はONした時に3mAの電流が流れるようにしたいと思います。電流増幅率(hFE)が25倍なので、ベース電流は3mA*1/25 = 0.12mA になります。R1の抵抗値は、R = E/ I ≒ ニキシー管の電源電圧 / ベースの電流 = 170V / 0.12mA = 1.4MΩ。余裕を持って低い抵抗値で、入手性がいい抵抗値として1MΩとします。
次に、R2を計算します。MPSA42のトランジスタにはONした時に、0.12mA*1/25 = 4.8uAの電流が流れるようにします。 R2の計算方法は、「各数字をON,OFFする」で計算した方法と同じで、
R = E / I = マイコンの出力電圧とベースの電圧の差 / ベースに流す電流 = ( 3 - 0.9 ) / 4.8uA = 437.5kΩ。余裕を持って低い抵抗値で、入手性がいい抵抗値として100kΩとします。
シミュレーション
10kHzでON,OFFした時の、ニキシー管に出力される電圧をシミュレーションしてみました。ピンクの波形が、マイコンから入力される波形、緑がトランジスタの出力波形です。
立ち下がりの波形が、入力の信号よりもかなり遅れています。立ち下がりの部分を拡大してみましょう。
トランジスタの出力電圧が50Vまで低下するのに、60usかかっています。ちょっと遅い気もするので、スピードアップコンデンサを1MΩと並列に入れてみます。
かなり波形がくっきりしましたね。コンデンサの値はいくつか試してみたのですが、100pFがいい感じでした。立ち下がりのところを拡大してみると、
5usまで短縮できました。
以上で設計完了です。
回路を作る
ニキシー管のアノード側、4つ分の回路をはんだ付けしました。
実験
2桁目のニキシー管をONしてみました。制御できています。3Vの信号で、点灯させるニキシー管を切り替えられることがわかりました。
マイコンでニキシー管を制御
3Vの信号で、各数字と各桁を自在に点灯できるようになったので、マイコンにESP32を使い、プログラムでニキシー管を点灯させてみます。
各桁をそれぞれ点灯
上の動画ではファイルサイズの関係で4桁目が光るところが映っていませんが、4桁とも0から9まで順番に点灯することができました。
ダイナミックスキャン点灯
各桁が正常に点灯できることがわかったので、続いて、4桁が同時に光っているように見えるよう、プログラムを改良します。具体的にはニキシー管の各桁を順番に高速に点灯させて、残像で全ての桁が光っているように表示させてみます。
いいですね。ダイナミックスキャン点灯もできました!
トランジスタだけでドライブ回路ができました
トランジスタだけで、ニキシー管のドライブ回路ができました。これで入手しやすい安価な部品で、ニキシー管の回路が構成できます。
さて、また時計でも作ろうかなぁ
2020.4.14 追加 続きはこちらです
追加終わり
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